大阪地方裁判所 平成9年(ワ)12408号 判決 1999年9月03日
原告
石垣誠
右訴訟代理人弁護士
位田浩
岸上英二
被告
京都ヤマト運輸株式会社
右代表者代表取締役
矢内忠吉
右訴訟代理人弁護士
寺田武彦
主文
一 原告が被告の正社員であることを確認する。
二 被告は、原告に対し、一八万〇一九〇円及びこれに対する平成九年一二月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 原告のその余の請求を棄却する。
四 訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
五 この判決は第二項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
一 主文第一項と同旨
二 被告は、原告に対し、二〇〇万八九六一円及び内金一八一万四八〇六円に対する訴状送達の日の翌日(平成九年一二月一七日)から支払済みまで年六分の割合による金員、内金一九万四一五五円に対する右同日から年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、被告従業員である原告が、被告の正社員たる地位を取得しているにもかかわらず、被告が正当な理由もないのに残業手当その他で差別して正社員扱いしないと主張して、正社員たる地位の確認、現に支給された賃金と本来支給されるべき賃金との差額の支払を求めるとともに、右賃金差別の結果、通勤災害の休業補償において、本来支給されるべき休業給付を受けられなかったと主張してその賠償を求めた事案である。
一 争いのない事実等
1 被告は、貨物自動車運送事業等を業とする会社であり、京都市伏見区に本店をおくほか、大阪府門真市に大阪支店をおいている。
原告は、平成七年三月二二日、被告に運転手として採用され、以後、大阪支店に勤務している。
原告は、全日本建設運輸連帯労働組合関西地区生コン支部(以下「連帯労組」という。)に加入し、同労組京都ヤマト運輸分会(以下「分会」という。)を結成している。
原告が被告に採用されて以来の原告の勤務態度には何らの問題も認められていない。
2 被告は、副社員就業規則を平成七年五月二九日に労働基準監督署に届け出た。
3 原告は、被告採用時から一貫して大型車の乗務を希望しているが、現在に至るまで大型車の乗務に配置されていない。
4 原告は平成八年五月二五日出勤途中の事故(以下「本件事故」という。)により負傷して休業したが、本件事故の相手方から休業損害に対する賠償として一〇〇万九〇八一円の支払を受けたほか、本件事故日から平成九年三月三日までの二八三日のうちの待機期間を除く二八〇日について労働者災害保(ママ)険法(以下「労災保険法」という。)による休業給付としてとして(ママ)合計二九一万五六四〇円の支給を受けた。
労災保険法による休業給付の支給額は疾病等の発生が確定した日(賃金締切日が定められているときは直前の締切日)の直前三か月間に当該労働者に対して支払われていた賃金の総額(交通費を含む。)をその期間の暦日数で除した一暦日当たりの賃金額を基礎に、休業補償給付がその六〇パーセント、特別支給金が二〇パーセントの割合で算定される(小数点以下切り上げ)こととなっている(<証拠略>)。
5 被告の従業員に対する賃金は毎月一五日締切りの同月二五日払いである(<証拠略>)(ママ)
二 本件の争点
1 原告が被告の正社員たる地位にあるか否か
2 原告に対する残業手当、大型車乗務、一時金支給において差別取扱があるか否か
3 休業給付等において、被告による賃金差別の結果、原告が、本来受給できる給付を受けられなかったか否か
第三争点に対する当事者の主張
一 争点1(原告の地位)について
1 原告
(一) 主位的主張
被告会社の就業規則には、試用期間の定めがあり、原則として三か月を試用期間としているところ、被告が、従業員を雇用する場合、三か月程度のアルバイトと称する試用期間を設けて採用し、その期間経過後は正式な雇用契約を締結することなく、自動的に正社員に雇用していた。
原告は、平成七年三月七日ころ、被告大阪支店の正社員募集に対して、大型車乗務員として正社員となるべく応募し、同年三月二二日「当面三か月はアルバイト、その後は正社員とする。」との約定で被告に運転手として採用された。
なお、当初、採用は同年三月一六日からと合意されたが、原告の希望で直ちに同月二二日からと変更されたものであり、アルバイト期間の終期は同年六月一五日である。
右の三か月の期間が経過した同年六月二二日までに、原告は被告から正社員に採用できないとの判断は受けていない。
以上によれば、原被告間には、平成七年三月二二日、当初の三か月(同年六月一五日まで)をアルバイト待遇の試用期間とし、技能や勤務状況に問題がなければ同年六月一六日からは待遇も正社員と同等とするとの正社員として雇用契約が締結されたものである。
そうでないとしても、原被告間には、同年三月二二日、アルバイトとして採用するが、約三か月の間に適格性に問題がなければ、同年六月一六日から正社員として採用するとの停止条件付雇用契約が締結されたものである。
よって、原告は遅くとも同年六月一六日以降、被告の正社員たる地位を有する。
(二) 予備的主張
被告が主張するように、仮に、原告が、平成七年四月一六日付けで副社員として採用されたものであるとしても、副社員とは、被告の副社員就業規則二条によれば「正社員登用を前提として一年以内の期間を設け、人物・職務遂行能力・勤務状況等を観察中の試雇社員」と定義されており、試用期間を一年以内とする試用労働者というべきである。
被告は副社員としての雇用契約を更新しているにすぎないと主張するが、このような試用期間の更新又は延長は、労働者をことさら不安定な身分に置くことになるから、就業規則等で延長の可能性、その事由、期間などが明示されていない限り許されないというべきであるが、同就業規則には、試用期間の延長や更新の規定はない。
被告が更新を継続している理由として主張するのは、被告従業員で組織する京都ヤマト運輸労働組合(以下「運輸労組」という。)といわゆるユニオンショップ協定(以下「本件ユシ協定」という。その内容は後述のとおり。)を締結していること、原告が連帯労組に加入しているということであって、このような事由をもって正社員登用を拒否することは違法というべきである。
よって、副社員契約の更新は許されず、原告は、遅くとも平成八年四月一六日には正社員たる地位を取得したというべきである。
2 被告
(一) 主位的主張に対して
被告が、原告採用に際し三か月経過後正社員にすると約束したことはなく、単に正社員に登用される可能性があると説明したに過ぎない。
被告(ママ)を採用した当初の契約は、中型運転手としてのアルバイト契約であって、その期間は、純然たる雇用契約の存続期間である。原告が採用された時点の労働条件が正社員としての取扱とは全く異なるものであったことは明白であり、試用期間を付した正社員としての雇用契約を締結したものではない。
仮に、採用当初のアルバイト期間が試用期間であるとしても、被告は同年五月末ころ、原告に対し「正社員に登用できない」旨明確に通告した。
被告は、同年四月一六日、原告との間で、雇用期間を一年とする副社員雇用契約を締結した。その後は、右副社員契約を更新しており、原告の現在の身分は副社員である。
(二) 予備的主張に対して
被告の副社員制度は、試用労働者ではなく、独立した社員の種別である。このことは、副社員が正社員と対比して、採用手続、賃金等の労働条件、雇用期間の有無等からして明らかである。
期間の定めのある雇用契約を更新することに何らの問題はない。
なお、被告が原告を正社員として登用しないのは以下の理由からである。
(1) 被告会社は、原告を除く全社員が加入する運輸労組と本件ユシ協定を締結しており、原告を正社員として登用する場合には、原告が運輸労組に加入することを雇用条件としなければならず、原告が運輸労組に加入しない場合には原告を解雇する義務を負うことになる。
(2) 被告は、運輸労組から、原告を正社員に登用するに当たっては、本件ユシ協定に基づいて原告が同組合に加入することを雇用条件とするよう強い申し入れを受けている。
(3) 右の状況下で円満解決の方策が見つからず、正社員登用審査の結論が出せないでいる。
二 争点2(差別取扱の有無)について
1 原告
(一) 時間外手当差別
原告は、平成七年七月分から九月分までは、他の社員と同様、割増賃金として、時間外手当(以下「残業手当」という。)の一時間当たりの単価(以下「時間外単価」という。)に、現実の所定時間外労働の時間(以下「残業時間」という)にかかわりなく、一日当たり六時間を乗じた保証残業日額について、当月の出勤日数を乗じた残業手当の支給を受けていたのであって、このような取扱は慣行でもあり、契約内容となっていた。
なお、タイムカードから算定される実残業時間が同年七月分は一四六・五時間、八月分は一六〇時間、九月は一五四時間である(別表1<略>の記載は給料明細書の記載である)。
しかるに、被告は、同年一〇月分から原告に対してだけ、実残業時間に時間外単価を乗じた額を支給するようになった。
かかる取扱は、原告が連帯労組に加入し、分会を結成したことが公然となった後に行われており、組合加入を理由とする不利益取扱であるとともに、平等原則に反して無効である。
したがって、原告は、被告に対して、第一には契約を理由として、第二に、仮にそのような契約が認められないとしても、平等原則に反する不利益取扱という不法行為を理由として、同年一〇月以降も、それ以前と同様に右残業保証日額に当月出勤日数を乗じた残業手当の支給を受ける権利を有するというべきところ、平成七年一〇月分から平成九年一〇月分までの各月の勤務日数、時間外単価、本来残業手当、既払残業手当及び未払残業手当の額は別表1のとおりであるから、原告は、被告に対し右未払残業手当合計四五万七七〇六円の支払を求める。
(二) 大型車乗務拒否
(1) 被告は、原告採用時、半年以内に、順番が来れば大型車乗務に配置する旨約した。
よって、原告は、右約定により、順番が来るか半年が経過することを条件に大型車乗務として取り扱われるべき権利を有する。
(2) 右合意が認められないとしても、被告大阪支店では、従業員は特段の事情がないかぎり、採用後三か月以内に大型車乗務に配置されており、大型車乗務までの経過期間は平均三か月である。
また、原告と同時期以後に入社した中型車の乗務員が大型車乗務を開始した時期からして遅くとも平成七年八月一日までには、原告に大型車乗務の順番が到来していた。
しかるに、被告は、原告が入社して三か月を経過した平成七年六月以後も、原告の大型車乗務を拒否している。
原告は、被告が原告を大型車乗務に配置できない理由として主張するように、近距離乗務だけを希望したことはないし、本件事故は原告が被害者となったもので、原告の大型車乗務拒否の理由となるものではない。
また、被告が、原告に対してのみ長期にわたり大型車乗務を拒否しているのは、原告が連帯労組に加入していることを理由とする不利益取扱であり、正当な理由のない差別である。
(3) したがって、被告は、第一には、右合意により、第二には、仮のそのような合意が認められないとしても、不法行為を理由として、同年七月以降(遅くとも半年が経過した同年九月以降)、原告を大型車乗務させたものとして取り扱わなければならない。
大型車乗務に支給される奨励手当七二〇〇円と中型車乗務に支給される奨励手当六八〇〇円の差額は四〇〇円であり、これに平成七年七月から平成九年一〇月までの原告の勤務日数を乗じた未払奨励手当は別表2<略>のとおりであるから、原告は被告に対し、右未払奨励手当合計一七万二四〇〇円の支払を求める。
(三) 一時金差別
右のとおり、被告は平成七年六月一六日以降、原告を正社員として取り扱うべきであるにもかかわらず、同年冬季一時金以降、正社員に対するより、著しく低い一時金しか支払わない。
原告が正社員であった場合に原告に支給されるべき一時金の支給額が、原告の年齢、扶養家族の人数等の要素に照らすと、正社員の平均支給額を上回ることは明らかである。
よって、原告は、被告に対して、正社員に対する一時金の冬期(ママ)平均支給額と原告が現に支給を受けた額との差額を請求する権利を有する。
平成七年冬季一時金以降平成九年夏季一時金に至るまで、一時金の各期平均支給額と原告が支給を受けた額、その差引未払一時金の額は別表3<略>のとおりであるから、原告は被告に対し右差引未払一時金合計一一八万四七〇〇円の支払を求める。
2 被告
(一) 残業差別
原告は、平成七年七月ないし九月の実残業時間の計算を誤っており、その間の実残業時間は別表1に記載のとおりである。
被告が、従業員の実残業時間に関係なく、保証残業日額を基準に算定した残業手当を支給してきたことは否認する。
被告は、実残業時間に応じた残業手当を支給してきたし、平成七年の一〇月の前後で計算方法を変更したこともない。
(二) 大型車乗務拒否
大型車の乗務員に支給される奨励手当と中型車の乗務員に支給される奨励手当との日額の差額が四〇〇円であることは認める。
被告が、原告を、半年以内に大型車に乗務をさせると合意したことはない。
大型車乗務員は、採用時から大型車乗務として採用された者が大半であり、例外的に中型車乗務員の中から一定期間の経験や勤務状況等によって大型車乗務に配置することはあるが、これまでに三か月以内に中型車乗務から大型車乗務とした例はない。
被告が、従業員を大型車乗務とするか中型車乗務とするかは、被告の裁量に属することである。
原告を大型車乗務に配置しないのは、第一に、原告が、近距離乗務を希望しているところ、大型車の近距離乗務の仕事は極めて少ないこと、第二に、原告は本件事故を起こして負傷しており、大型車による事故が起これば大事故となるため、原告を大型車乗務とすることに不安があること、以上がその理由である。
(三) 一時金差別
別表3のうち、「原告受領額」欄の記載は認める。
正社員と副社員とでは、一時金の内容金額が異なっている。正社員の一時金が運輸労組との交渉に基づく協定で決定されるのに対し、副社員の一時金は被告が決定しており、その基本的な内容は出勤日数に一日当たりの定額を乗じた額である。
原告は副社員であるから、原告には正社員と同等の一時金の支給はない。
三 争点3(休業給付の損害)について
1 原告
(一) 原告は、本件事故に遭遇し、労働者災害補償保険によって同日から平成九年三月三日までの二八三日間のうち、待機期間三日を除く二八〇日の休業について、休業給付合計二九一万五六四〇円(その内訳は、休業補償給付二一八万六八〇〇円、休業特別支給金七二万八八四〇円である。)の支給を受けた。
しかるに、原告に支給された直前三か月の賃金は、本来支給されるべき賃金額よりも少ない。これは、被告が、連帯労組に加入した原告に対して正社員登用拒否という不利益取扱(労働組合法七条一号違反)をしたことによるものであって、右の不当労働行為がなければ、原告は別表4<略>の「支払われるべき賃金」欄記載の金額を基準にした休業給付合計三一一万一三四〇円を受給できたはずである。
一二五万〇〇二九円÷九〇日×二八〇日×八〇%=三一一万一三四〇円
原告は、被告会社の右不利益取扱という不法行為の結果、差額一九万五七〇〇円の支給を受けられず同額の損額(ママ)を被ったので、被告に対し、不法行為に基づく損害賠償として右損害のうちの一九万四一五五円の支払を求める。
(二) 被告は、原告が休業給付のほか、事故の相手方から損害賠償を受けており、原告に損害はないと主張するが、損害を填補する休業補償給付は二一八万六八〇〇円にすぎず、これに相手方から受領した賠償金一〇〇万九七九二円を加えても三一九万六五九二円にしかならず、原告の休業損害三八八万九一七五円(一二五万〇〇二九円÷九〇日×二八〇日)には及ばない。
2 被告
別表4の「支払われるべき金額(ママ)」欄記載額は否認する。
仮に、原告の計算式によったとしても、原告の休業損害の総額は三八八万九一七五円のところ、原告は、受領済みの休業給付二九一万五六四〇円のほかに、加害者から休業損害賠償金として一〇〇万九七九二円の支払を受けており、損害はない。
また、原告が受領した休業損害の補償や賠償に不足があるい(ママ)うのであれば、事故の相手方に請求すべきであって、被告に請求するのは筋違いである。
第四当裁判所の判断
一 争点1(原告の地位)について
1 証拠(<証拠・人証略>、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(一) 被告には、従業員として、正社員、副社員、準社員(雇用期間を一年とし、軽作業を担当する高年齢者中心の従業員)、契約社員(いわゆるパートタイマー等)、特別社員(定年退職後再雇用の従業員)等の種別がある。
副社員は、被告が、平成六年四月二一日に副社員就業規則の作成によって創設したものである。
また、被告では右の社員の種別に応じて、正社員を対象とする就業規則、副社員就業規則、契約社員取扱規定が定められている。
被告は副社員就業規則制定後の同年五月ころから、副社員として従業員を採用するようになった。
就業規則によれば、同就業規則の適用を受ける社員とは「被告と雇用契約を締結して正社員として雇用された者をいう」(一条、二条)とされる。そして、正社員は選考の上採用されるが(二条)、採用は辞令の交付(ただし、伝達をもって辞令に替えることがある。)をもって行う(一五条)ものとされている。新たに雇用された者は、原則として三か月を試用期間とされ、その期間中に不都合な事実が判明したときは採用が取り消されることとなる(一一条)。試用期間中または試用期間が満了して社員に採用しないときは、被告が解雇するものとされている(二三条)。
これに対し、副社員就業規則によれば、副社員とは、「正社員登用を前提として一年以内の期間を設け、人物・職務遂行能力・勤務状況等を観察中の試雇社員」であり、正社員登用は副社員審査により行うが、その審査内容は、正社員登用のための審査及び試雇期間中の観察とされ、審査観察によって、正社員登用不適格と判定された者については、退社処理を原則とするとされている(二条)。そして、副社員は選考のうえ採用されるが、採用は副社員採用通知書の交付によって行う(四条)ものとされる。また、試雇期間が満了し、正社員に登用されないときは、副社員はその資格を失うものとされる(二八条)。副社員採用通知書はその様式が定められているが、それには「正社員登用のための試雇期間として採用後一年以内の観察機関(ママ)を設け、その間の勤務状況および所定の事項を審査する」「観察期間中、別に定める審査基準により正社員登用不適格と判定した場合は、その判定により準社員に変更または退社処理とする」等の記載がある。
以上のほか、正社員、副社員とも、採用された者は履歴書、労働者名簿記入事項を証する書類、誓約書、免許証や卒業証明書、学業成績証明書等の提出を義務づけられている(就業規則七条、九条、副社員就業規則四条、五条)。
副社員の労働条件については、服務規律、労働時間、休日、年次有給休暇、特別休暇は正社員に準じるなどとして同等と規定されれ(ママ)ている。副社員の賃金は。(ママ)副社員就業規則では別に給与規定で定めることとされている(三二条)が、給与規定は作成されておらず、別途「副社員の主な労働条件」(<証拠略>)として定められ、正社員に準じる(ただし、奨励作業手当については入社後三か月は日額六〇〇〇円、四か月目から歩合給)とされている。
他方、正社員に対しては、就業規則、給与規程により年二回の賞与(支給額及び支給基準はその都度定める)及び退職金が支給されるが、副社員の賞与は、副社員就業規則によれば「営業成績に応じて支給することがある」(三二条)とされるに留まり(なお、右「副社員の主な労働条件」によれば、「一四〇〇円×労働日数」の算式で支給されることとされている)、また、副社員には退職金支給の規程がない。
(二) 被告には、運輸労組があり、被告は同労組との間に昭和四七年三月一日締結の労働協約を締結しているが、同協約には、「会社の従業員はすべて組合員でなければならない。但し次の者は組合員より除く。(1) 部長・課長・工場長・所長(職制による) (2) 秘書及人(ママ)事に関する機密に関与する者但し会社及び組合が承認した者を除く (3) 臨時に雇用したる者 (4) 前各項の外会社・組合との両者協議の上決定したる者」(六条)との規定がある(本件ユシ協定)。
運輸労組は、正社員のみで構成されており、被告が従業員を正社員として採用したときは、別段の手続きを経ることなく、採用された従業員は運輸労組に加入するものとして取り扱われてきた。
(三) 被告が正社員を採用する場合、従前は、一ないし三か月程度の期間アルバイトとして雇用し、その間の勤務状況等をみた上で採用するということが多くなされていたが、副社員就業規則制定後は、まず副社員として採用し、その間の勤務状況等をみて正社員として採用するという方法が一般的となってきており、アルバイト期間を経た後副社員または正社員として雇用するということは皆無ではないものの、少ない。
また、被告は、従前から、従業員を採用する際、定型の臨時員雇用契約書に署名させて提出させていたが、副社員就業規則制定後も、これを利用していた。
被告が、副社員から正社員に登用するときは、正社員採用通知書を交付している。その際、改めて健康診断を行うことはないが、家族等に変動があれば履歴書を再提出させている(<人証略>の尋問中には、誓約書も再提出させているとの証言もあるが、同証人は同じ尋問中にこれを否定する証言をもしていて一貫せず、この点についての同証人の証言は信用できず、右の事実は認められない)。
なお、アルバイトの従業員には、社会保険の適用はない。
(四) 原告は、被告の大型車及び中型車の運転手募集の新聞広告をみて、平成七年三月七日ころ、これに応募し、被告大阪支店において、営業課長河崎史郎の面接を受けた。
河崎は、右面接において、当面はアルバイトとして雇用すること、様子を見て社員に採用すること、その間は概ね三か月程度であることを雇用の条件とし、原告はこれを承諾した。川(ママ)崎は、原告に対し、賃金の締切日(毎月一五日)との関係で平成七年三月一六日から勤務するようにと求めたが、原告は当時他に勤務していたため右同日からの被告での勤務は困難であるとしてこれを拒否し、結局、原告の申出が容れられて、同月二二日から勤務することとなった。
また、右の面接時、原告は、大型車の乗務を希望したが、河崎からは、半年くらい我慢するように、順番が来たら乗務させるとの説明がなされた。
さらに、原告は、社会保険だけでも早急に適用してほしいと希望した。
原告は、同月二二日から、被告大阪支店で中型車の運転手として勤務するようになった。勤務開始に当たっては、原告は河崎から求められていた誓約書等の書類を提出した。
原告は、同年四月一六日、臨時社(ママ)員雇用契約書に署名して被告に提出した。
被告では、内部手続上、右同日、原告を副社員として雇用したこととして、「副社員入社時必要書類」等の内部書類を作成するとともに、右同日から原告に雇用保険、健康保険、厚生年金保険等を適用する扱いとした。
しかし、右の時点で、被告からは、原告を副社員として処遇することとなった旨の説明はなされなかった。
同年五月下旬ころ、河崎は、原告に対し、原告が以前勤務していた職場で生じた労使紛争に関して、連帯労組が被告の親会社であるヤマト運輸の大阪南港ベースに押し寄せたこと、当時原告が連帯労組に加入していたことを理由に、本採用できないので他の職を探すようにとの通告をした。
この当時、原告は、連帯労組を脱退していたが、右通告を受けて、同年六月上旬ころ、ほか二名の被告従業員とともに連帯労組に相談に行き、同労組に加入し、分会を結成して自ら分会長となった。
被告の従業員に対する賃金支給日は二五日であるが、原告が、被告から支給された賃金は、平成七年四月分から七月分までは時給で賃金が算定されており(ただし、五月分からは雇用保険等の控除がなされている)、同年七月分(対象期間は同年六月一六日から七月一五日まで)から、職能給、年齢給等の固定給に変わった。このため、原告は、七月分の賃金の支給を受けるまでは、自らの身分を正規の従業員とは認識しておらず、右賃金条件の変更によって被告の従業員とされたものだと考えていた。
このころ、原告は、被告には従業員の区分として正社員以外にも副社員等があるとのうわさを聞き、自らの身分関係に不安があったことや原告とともに連帯労組に加入した従業員の雇用継続問題等が生じたこともあって、組合加入を公然化することとし、同年八月二八日、団体交渉申入書及び分会要求書を被告に提出した。これらの要求書には、原告ら連帯労組組合員の身分を明らかにすることも要求事項として含まれていた。
平成七年九月一二日、被告大阪支店長手塚治三郎は、副社員の給与内容を変更したとして、原告に対し、同年六月一六日付の副社員雇用通知書を渡そうとしたが、原告はその受取りを拒否した。
(五) 連帯労組は、平成七年末ころには、被告から、労働協約の写しを入手して、被告が運輸労組と本件ユシ協定を締結していることを知った。
被告と連帯労組間では、平成八年四月一〇日及び二三日の両日団体交渉がもたれ、その際、原告の正社員登用が論議されたが、被告からは、原告を正社員に登用できない理由として、運輸労組と本件ユシ協定を締結していること、同労組から労働協約の遵守を強く求められていることなどが回答された。
この間、運輸労組は、同年三月一三日、被告に対し、本件ユシ協定を遵守するよう要求する旨記載した同日付けの申入書を提出していた。
また、手塚は、同月一五日、原告に対し、正社員に登用するために連帯労組を脱退して運輸労組に加盟するようにとの申入れをしたが、原告は結局これを拒否している。
2 以上認定の事実によって判断する。
(一) 原告の主位的主張について
原告が平成七年三月二二日に被告に雇用されたことは争いのないところであるが、その際、原告は河崎から、身分について当面はアルバイトと説明されているし、被告が新規に従業員を採用する場合、その手続について副社員就業規則制定前後で推移はあるものの、その前後を通じていきなり正社員としての雇用契約を締結するという方法は一般的には行われておらず、副社員就業規則制定後は、まず副社員としての雇用契約を締結した上で正社員契約に切替えるという方法が一般的となってきていたというのである。また、就業規則や副社員就業規則では、社員の採用は、辞令の交付(正社員の場合)または副社員雇用契約書の授受(副社員の場合)によって行うものとされており、現実には臨時員雇用契約書を提出させるなどしていたところ、右同日からの雇用は、同月七日、面接を担当した河崎限りで、原告との交渉の上、その場で取り決められたものであり、その際には、雇用契約を証する書面の授受や採用辞令の交付もなく、必要書類等の提出もその後に行われているのであって、果たして河崎に、未だ必要書類も整わない段階で、面談のみによって、口頭で正社員を雇用する権限まで付与されていたかにははなはだ疑問がある。さらに、原告自身、身分はアルバイトという河崎の説明やその後の賃金が時給であったこと等から正規の従業員であるとの認識はなく、雇用保険等も当初から適用されるものでないことを承知していたのである。
これらの諸事情に照らすと、同月二二日からの雇用が、すでにその時点で正社員としての雇用契約に基づくものであったとは到底認められない。
また、原告は、三か月の間に原告の社員としての適格性に問題がないことを停止条件とする正社員としての雇用契約であったとも主張するが、右の諸事情に照らすと、条件付きとはいえ、同月二二日の時点で、確定的な雇用契約が締結されたと認めることは困難である。
よって、原告の主位的主張は採用できない。
(二) 原告の予備的主張について
(1) 原告が、現在も、被告において副社員として取り扱われていることには争いがないし、他方、右のとおり平成七年三月二二日の時点で被告の正社員とする契約が成立していたとは認められない。原告は、その後、原被告間で原告を正社員とする雇用契約が締結されたことを主張しておらず(証拠上も、そのような事実は認められない)、そうすると、三月二二日より後のいずれかの時点で、原被告間に副社員としての雇用契約が締結されたというほかない。その時期がいつかは、証拠上必ずしも明らかとはいえないが、被告が同年四月一六日の時点で原告に社会保険等を適用するようになったこと、その際、内部的にではあるが原告を副社員として処遇していたこと、右時点において原告に臨時員雇用契約書を提出させていること等が認められるほか、右のとおり、原告は、予備的にではあるが、被告の主張を容認していることなどからして、右同日、副社員としての雇用契約が成立したものというべきである。
(2) そこで、副社員の法的性質について判断する。
原告は、副社員が、解約権留保の趣旨の試用期間である主(ママ)張するのに対し、被告は副社員は正社員とは別の社員の種別であると主張している。
たしかに、正社員と副社員とでは、就業規則や副社員就業規則等の上で、正社員として採用された試用期間中の従業員の採用を被告が取り消す場合には解雇の手続を取ることとされているのに対し、副社員は、一年以内の試雇期間満了時において正社員に登用されないときには、自動的に退職扱いになるものとされていること、賞与の支給基準に差があるほか、副社員には退職金規程がないことなどの違いがあるほか、実際の運用においても、副社員を正社員に登用する場合には、正社員採用通知書を交付し、就業規則上の正社員採用時(辞令交付)と同様の手続が取られている。
しかしながら、副社員は、単なる期間雇用と異なり、正社員登用を目的とする試雇社員と定義されていること、現実の運用上も、副社員は、社員としての種別であることが明らかな準社員や契約社員などと異なり、勤務内容等や月例賃金は正社員と同等であること、正社員登用時には正社員採用通知書が交付されるといっても、他に格別の手続がなされるものではなく、提出書類も副社員採用時のものがそのまま流用されており、そうすると右通知書の交付も、その時点で新たに副社員とは異種の正社員としての雇用契約を締結したことを証するものというよりは、被告が一方的に労働条件の変更を通知するだけの辞令にすぎないと認められること、副社員就業規則制定後の正社員の採用は、副社員雇用契約を経由して行うことが一般的となっていることなどからすると、副社員が、正社員採用のための試用期間であることは明らかというべきであり、副社員と正社員とが全く種別の異なる社員であるとすることはできず、むしろ、正社員として登用された場合の従業員の地位はその前後で連続性を有するものと解される。
副社員には、賞与の支給条件が正社員と異なることや退職金規程が存しないことは、正社員に登用されないまま一年以内で契約終了となる場合があることによるものと解され、これらの相異が副社員としての法的性質を正社員との(ママ)別種の社員であると決定づけるものとは考えられない。
そうすると、副社員は、期間の定めがない雇用契約であることを前提に、被告において広い裁量権のある解約権を留保する趣旨のものであると解するのが相当であり、正社員とは別種の従業員であるという被告の主張は採用できない。
そして、右のように解するときは、留保された解約権が行使されたと認められない限り、試雇期間の経過によって解約権は消滅し、被告と副社員との雇用契約は、解約権留保の存しない雇用契約である正社員としての雇用契約に移行するものというべきである。
(3) これを本件についてみると、本件では、被告は、原告を副社員として採用した後の平成七年五月末ころ、原告に対し、原告の過去の組合所属歴を理由に本採用できない旨通告し、さらに、副社員採用から一年が経過する平成八年四月一五日に(ママ)前後、連帯労組との団体交渉において、本件ユシ協定の存在等を理由に原告を正社員として登用できない旨通告している。一方、被告は、その後も、原告が就労を継続するのを拒否することなく、副社員として処遇し、賃金支給などを行ってきているが、現在にいたるも正社員としては認めていない。
このような経過について、被告は、副社員が期間雇用であることを前提として、その更新であると主張しているのであるが、右のとおり、副社員を期間雇用であるとは解することはできない。
被告が正社員登用をしない旨原告に明示していることからすると、解約権を行使したと解する余地がないではないが、被告自身、契約更新であると主張して雇用契約が継続してきていることを認めているのであるから、右のような解釈は契約当事者の意思にそぐわないものというべきである。また、右のように解したうえで、なお、原告が副社員であるということを説明しようとすると、その後も副社員としての再契約と解約権行使が重ねられてきたといわざるをえないこととなるが、これは明らかに不自然である。試用期間の延長ということも考えられないではないが、被告は副社員が試用期間であることを否定して、予備的にもそのような主張をしていないし、本件ユシ協定を理由に正社員登用を拒否することは、結局原告の連帯労組脱退を正社員登用の条件にしているのと同様であって、そのような合理性があるとも思えない理由で、無限定な延長期間を認めることは相当でない。
以上によれば、結局留保された解約権は、被告が原告の就労継続を承認したことによって行使されなかったか、あるいは一旦行使されたとしても撤回されたものと解するほかない。そうすると、副社員採用から一年の試雇期間が経過した平成八年四月一六日には、原告は被告の正社員たる地位を取得したものというべきである。
(三) よって、被告の正社員たる地位の確認を求める原告の請求は理由がある。
二 争点2(差別取扱の有無)について
1 残業差別
原告は、一日当たり六時間を乗じた保証残業日額について当月の出勤日数に乗(ママ)じた金額の残業手当の支給が慣行となっていたと主張するが、そのような慣行を認めるに足りる証拠はない(原告は、タイムカードから算定される実残業時間が同年七月分は一四六・五時間、八月分は一六〇時間、九月は一五四時間であったにもかかわらず、この間の残業手当の取扱が別表1のとおりであったと主張するが、タイムカード(<証拠略>)には、記載のない部分もあり、右期間の原告の実残業時間が原告主張の時間であったとは認められない)。
よって、未払の残業手当があるとして、未払賃金または損害賠償としてその支払を求める原告の請求は理由がない。
2 大型車乗務拒否
(一) 原告が、被告にアルバイトとして採用されて以来、大型者(ママ)の乗務を希望してきたこと、現在に至るまで原告の大型車乗務が実現していないことは当事者間に争いがなく、証拠(<証拠略>、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、大型車乗務に必要な運転免許を有しており、経験もあったこと、原告は、被告にアルバイトとして採用されるに当たって大型車の乗務を希望したが、面接を担当した河崎から、順番があること、半年位したら大型者(ママ)に乗れるようになることなどの説明を受けたこと、被告が平成五年度中に中型者(ママ)乗務員として採用した乗務員のうち、その後、大型車乗務に変更された者、その時期及び大型車乗務に変更までの経過期間は別紙大型車乗務一覧表<略>のとおりであること、このうち、大型車乗務までの経過期間が一〇か月以上に及ぶ中山及び氏原は大型車の運転免許を有してはいたが、大型車乗務の経験がなかったことが認められる。
(二) 以上に対し、原告は、被告が、半年以内に順番が来ることを条件に大型車に乗務させることを約した旨主張するが、そのような事実を認めるに足る証拠はない(原告は、本人尋問で右主張に沿う供述をするが、原告自身が作成した報告書(<証拠略>)の記載や原告が大阪地方労働委員会の審問でした証言(<証拠略>)等に照らし、右供述は信用できない)。
よって、現に大型車乗務をしていない原告には、大型車乗務をした場合に支給される奨励手当と現に支給された奨励手当との差額を未払賃金として請求できる権利があるとは認められない。
(三) 他方、右の認定事実によれば、原告と同時期採用の中型車運転手のみならず、原告より後に採用された中型車運転手でさえもすでに大型車乗務に配置されており、原告が大型車乗務を希望しながら未だにその希望が実現されていないのは、まことに不可解というほかない。
この点について、被告は、いかなる従業員をいかなる部署に配置するかは、使用者である被告の裁量に属することであるし、原告を大型車乗務に配置しないのは、原告が近距離乗務を希望していること、原告が本件事故を起こしたことなどによるものである等と主張し、岡谷の陳述書(<証拠略>)には、原告を大型車乗務に配置しない理由について、被告の右主張に沿う記載がある。
しかしながら、原告は近距離乗務だけを希望したことを否定し、陳述書(<証拠略>)にも同旨を記載しているほか、本件事故は、原告が原動機付自転車を運転していた際の事故であって(<証拠略>)、そのことから直ちに原告の大型車乗務員としての適正に疑問があるとはいえない。また、原告本人尋問や陳述書(<証拠略>)によれば、被告は大阪地方労働委員会の命令が発令される以前の連帯労組との団交では、原告を大型車乗務させることを認めていたのに、同委員会の命令が出された後は原告の大型車乗務について触れなくなったことが認められる。これらに照らすと、原告を大型車乗務に配置しないことの理由が、被告が主張し、岡谷が右の陳述書に記載しているような経緯によるものとは認められない。
そして、被告が、原告の過去の連帯労組所属歴が判明した平成七年五月末ころの時点から、そのことを理由に採用拒否を表明していたことや平成八年三月ころ以降正社員登用の条件として連帯労組脱退を持ち出していることなどを併せ考えると、被告が原告を大型車乗務に配置しないのは、原告が連帯労組に加入していることを理由とするものであると推認できる。そのような理由による不利益扱は、人事に関する裁量権限の逸脱であることは明らかであり、労働組合法七条一号に違反し、不法行為に該当すると解される。
前記認定のとおり、大型車の乗務経験がなかった中山及び氏原を除けば、平成七年度に採用された中型車の乗務員は半年以内には大型車の配置に変更されており、そうすると、原告も、被告による差別がなければ、採用から半年を経過した平成七年九月二二日以降は大型車乗務に配置されていたものと考えられる。同年九月二二日から翌一〇月一五日までの勤務日数は一九日であり(<証拠略>)、同月一六日から平成九年一〇月一五日までの勤務日数は別表2の平成七年一一月以降の勤務日数のとおりである(<証拠略>)から、以上合計三五三日について、原告は大型車乗務の奨励手当と中型車乗務有給休暇(ママ)の奨励手当との差額日額四〇〇円、合計一四万一二〇〇円の損害を被ったと認められる。
よって、乗務差別として損害賠償の支払を求める原告の請求は一四万一二〇〇円(但し、遅延損害金は民法所定の年五分の割合である。)の限度で理由があるが、その余は理由がない。
なお、被告は、右の不法行為の主張が時期に遅れたものと主張するが、すでに述べたとおり、原告は、休業給付等に関わる損害賠償請求に関して、乗務差別を不法行為として主張していたのであるから、右の主張を追加したからといって、これによって訴訟の完結を遅延させることにはならない。
3 一時金差別
前記のとおり、原告は平成八年四月一六日には、被告の正社員たる地位を取得していたと認められ、それ以後は正社員としての賞与の支給を受け得たものというべきである。
しかしながら、第四の一1(一)に認定したとおり、就業規則上、正社員の賞与については、支給額及び支給基準はその都度定めることとされており、弁論の全趣旨によれば、被告は、運輸労組に所属する正社員に対しては、同労組と団体交渉のうえ妥結した基準により支払ったことが認められるものの、同労組に加入していない原告が、これと同等の賞与の請求権を当然に有するものとしなければならない理由はない。
よって、原告の請求は理由がない(付言するに、仮に原告に未払賞与の請求権があるとしても、原告に支給されるべき賞与が正社員の平均額を下回らないと認めるべき証拠はなく、この点からも、原告の請求は理由がない)。
三 争点3(休業給付の損害)について
1 原告(ママ)
(一) 前記のとおり、原告が未払の残業手当の請求権を有するものとは認められないが、乗務差別については、その平成八年三月分ないし五月分の賃金について、別表4の「未払大型車乗務手当金額」欄記載の奨励手当の支給が受けられたものと解され、これを支給しなかったことは被告の不法行為に該当する。
右の間に支払われた賃金は、証拠(<証拠略>)及び弁論の全趣旨によれば合計一一七万一四五八円と認められ、右奨励手当が支給されたものとすると、支払われるべき右三ヶ月分の賃金は合計一一八万七一二八円であったことになる。
右の賃金の支給対象期間は同年二月一六日から五月一五日までの暦日数九〇日(平成八年は閏年)である。
そ(ママ)うすると、右の支払われるべき賃金を前提として、原告が受けることの出来た休業給付を算定すると、次の算式により、二九五万四六三〇円となる。
一一八万七一二八円÷九〇日×二八〇日×八〇%≒二九五万四六三〇円
しかるに、原告は、被告の右不法行為の結果、別表4の支払われた賃金欄記載の金額によって算定した金額合計二九一万五六四〇円(この受領額には争いがない。)の支給しか受けておらず、差額三万八九九〇円の損害を被っている。
(二) 被告は、原告が休業給付として受領した以外にも事故の相手方から一〇〇万余円を休業補償として受領しているから、原告に損害はないと主張するが、労災保険法によって支給される休業給付と事故の相手方が支払義務を負う損害賠償とはその趣旨を異にするものであり、一定の限度ではその間の調整(労災保険法一二条の四)が図られているけれども、原告が相手方から休業補償の損害賠償金を受領したことによって、原告が本来受給できたはずの休業給付を受けられなかったことによって被った損害がてん補されるというものではない。
したがって、この点の被告の主張は採用できない。
(三) 以上によれば、右差額三万八九九〇〇(ママ)円の支払を求める限度では原告の損害賠償の請求は理由があるが、その余は理由がない。
(裁判官 松尾嘉倫)